第二十三章
■サンフランシスコからサクラメントへ■

 サンフランシスコからサクラメントの国内線は二十人乗りほどの小さな飛行機だ。セスナ機を思い出させるような小型機。まあこれが揺れること揺れること。異常なほど飛行機に弱い妻のことが心配になってきた。何しろ「飛行機」と口で言ったけで気持ちが悪くなる人だ。これも今までになかったことだが、英二郎が面倒を見てくれている。窓外の景色は日本の田んぼのような風情はない。まるでテニスコートを規則正しく並べたようなカリフォルニア米の田んぼだ。この広さではなにをするにしても飛行機を使わなくてはとても間に合わないと言うのがよく理解できた。

時間にして三十分ほどで無事にサクラメント空港に到着した。妻の方も問題なかったようである。何事にも驚くことの少なくなったこの私でも、相変わらずのカリフォルニアの青い空には感心する。これで気温は三十度近くあるだろうに湿度の低いせいでさっぱりとしている。日本から到着したばかりだと特に湿気のなさを痛感する。

サクラメント空港のゲートにはすでに出迎えのボランティアが待っていた。日本からは何度となく電話で話をしているボランティアの方と初の顔を合わせだ。
「ナイストゥミーツユー」英語のしゃべれない私はこの一言を、今後アメリカで連発することになる。この一言だけを知っていれば、とりあえずといっては変な言い方だが、挨拶となる便利な言葉だ。直訳すると「あなたにお会いできてうれしい」となる。

 早速バンドメンバーの紹介に移った。アメリカと言うところはまず握手だ。それから「ハグ」と言って抱き合ってほっぺたにキスをする。これがアメリカの文化だ。なれるまでちょっと時間かる。一通りメンバー紹介の後は私の妻と向里直樹のファミリーを紹介する。やはり握手とハグで初対面の挨拶は終了。次にこの二週間我々の専属ドライバーとなるジエーン、パットの夫妻が紹介された。二人合わせて250キロは軽く超すと思われる典型的なアメリカ人。しかし、太っていると言うことでは後でもっと驚かされることになる。早速スーツケースや譜面のバッグを車に積み込み、私たちが二週間使う車に乗り込んだ。車には、切手四枚分ぐらいのを大きさの日本の国旗が、車の四方に貼ってあり改めて自分たちが日本代表だという緊張感を味わう。

 サクラメントはカリフォルニア州の州都。サンフランシスコからおよそ145キロ北東に位置し、国道80号線でおよそ2時間。気候は温暖、日本でもおなじみの「つばきの都」として知られている。人口は三十九万人。日系人もおよそ一万人が在留している。
サターズ砦と松山城、市花が同じ「つばき」等と言うこともあり松山市とは昭和五十六年に姉妹都市を結だ日本でもおなじみの美しい都市。

 1848年一人のスイス移民がサクラメント近郊を流れるアメリカン川で金鉱を発見したのがゴールドラッシュの始まり。その影響でわずか数百人だった人口が、数ヶ月の中に二万五千人に膨れ上がった。フォーティーナイナーズ(1849年)とはこの時代の人たちのことを指している。
 日本からも江戸時代の終わりに、ジョン万次郎が漂流しているところをアメリカの捕鯨船ジョン.ハウランド号のホイットフィールド船長に助けられ、ゴールドラッシュの時代にこの地を訪れた。現在は農業が主要産業となつている。

 「ジョン万次郎から数えて、私は何番目にサクラメントを訪れたのだろう?」そのようなことを考えながら一路サクラメントの宿舎へ向かう。アメリカと言うところは高速道路が発達していて、高速料金を取られるところはニューヨークの一部とサンフランシスコのゴールデンゲートぐらいではないか。およそ十五分ほどで宿舎であるハートーンホテルに到着した。想像していたよりははるかにきれいなホテルだ。

 「HOWTHORN SUITE」このホテルの名前のおかげで、滞在中の2週間大変苦労することになった。どこに問題があるかというと、「TH」この発音が日本人には出来にくい。ボランティアと一緒の時は問題ないのだが、自分たちだけでタクシーに乗った時などは「ハートンスイート」「ト」の所で舌をいくら噛んで発音してもまず通じない。
仕方なく最後の手段、ホテルのネームカードを差し出すのだ。
「オー、ホートンスイート」何度いっても我々とそう大差はないと思うのだが、、、。

 「想像したよりはるかにきれいなホテル」とは、実は前回の時のホテルとは、その豪華さが大きく違うのだ。専用プール、我々の部屋はテレビが三台、大きな冷蔵庫、オーブン、なにをとっても文句なし。
「これなら快適な2週間が過ごせる」思わず口をついて出た。
ホテルのチェックインまでには三時間ほどあり、しばらくロビーで待っては見たものの、時間がもったいないので買い物に行くことにした。みんなの希望聞いてみるとまず、インスルメントストアーいわゆる楽器屋さん、次にスーパーマーケット。

 
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